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福島地方裁判所 昭和54年(ワ)355号 判決 1982年1月13日

原告

佐伯正義

被告

村上育以

ほか二名

主文

被告村上育以は原告に対し金六五三万三九四八円及び内金五九四万三九四八円に対する昭和五四年三月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告村上育以に対するその余の請求及び被告有限会社吾妻紙器、同菊田新八郎に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中、原告と被告村上育以との間に生じたものはこれを五分し、その二を右被告の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告有限会社吾妻紙器、同菊田新八郎との間に生じたものは全部原告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金一六五〇万円及び内金一五〇〇万円に対する昭和五四年三月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告村上育以(以下被告村上という)の答弁

原告の請求を棄却する。

三  請求の趣旨に対する被告有限会社吾妻紙器(以下被告会社という)、同菊田新八郎(以下被告菊田という)の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は次の交通事故により傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和五三年三月九日午後四時五〇分頃

(二) 発生場所 福島市飯坂町湯野字橋本一六番地先路上

(三) 第一加害車 被告村上運転の普通乗用車(福島五む一二八八号)

第二加害車 被告菊田運転の普通貨物自動車(福島四四に九九三九号)

(四) 被害者 原告

(五) 熊様 原告が右路上を湯ノ上方面から桑折方面に向い歩行中、T字路交差点の側端から二メートルのところに第二加害車が道路端ぎりぎりに駐車していたため、原告は道路右端を通れずやむなく第二加害車の前面から脇を通つて歩行しようとしたとき、対向進行してきた第一加害車に衝突された。

2  原告は右事故により頭部外傷(脳挫傷)、右大腿骨々折、左脛骨及び腓骨々折の傷害を受け、昭和五三年三月九日から同年九月一六日まで財団法人大原綜合病院に入院し、同年一一月二七日から同年一二月五日まで同病院に入院し、同年九月一七日から昭和五四年三月二日まで通院(実日数一八日間)して、それぞれ治療を受けた。

その結果後遺症として、右下肢短縮、視力低下(視神経部陥凹、視力測定不能)、脳器質的損傷(脳波検査ではアルフア波が認められない)の障害が残つたが、右各後遺障害は併合して自賠責の後遺障害等級の第四級に該当する。

3  被告らの帰責事由

(一) 被告村上

同被告は、桑折町方面から湯ノ上方面に向い制限速度の時速三〇キロメートルを越える速度で進行し、本件事故現場付近にさしかかつたところ、右現場左側には第二加害車が駐車しているのを認めたのであるから、その側方を通過する際は、自車の進路上に幼児児童等の人影を認めないときでも周囲の情況上自車の進行に気付かず、その前方に右幼児等の歩行者の進出が予想されるのであるから、被告としては警音機を吹鳴して自車の通行を警告し徐行すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然と同一速度で進行した過失により、第二加害車の側方を歩行してきた原告に気付かず衝突させたものであるから民法七〇九条により損害賠償義務がある。

(二) 被告菊田

被告菊田は駐車禁止場所と指定されている本件事故現場に、しかも交差点の側端より二メートルの距離のところに道路左側端ぎりぎりに違法駐車して歩行者の交通を妨害し、本件事故発生の原因をつくつたものであるから民法七〇九条により損害賠償責任がある。

(三) 被告会社

被告会社は第二加害車の所有者であり運行供用者であるから自賠法三条により損害賠償責任がある。

4  損害

(一) 治療費

前記治療に要した費用は金一一二万四四七八円であるところ、被告村上が八六万六五五四円を支払つたのでその残金二五万七九二四円

(二) 入院雑費

一日六〇〇円の割合による二〇一日間分金一二万〇六〇〇円

(三) 付添費

前記二〇一日の入院期間中原告の父勉が付添看護した費用として一日二〇〇〇円の割合による金四〇万二〇〇〇円

(四) 通院交通費

医王寺駅前から大原綜合病院まで往復大人四六〇円、子供二四〇円の一八日分計金一万二六〇〇円

(五) 入通院慰謝料 一六〇万円

(六) 後遺障害に対する慰謝料

原告は前記の後遺障害を残したのでその分の慰謝料として金八二四万円が相当である。

(七) 逸失利益

原告は本件事故により前記の後遺障害を残し、九二パーセントの労働能力を喪失した。

原告は本件事故当時六歳の男児であるから一八歳から六七歳まで稼働可能であり、その収入は昭和五二年賃金構造基本統計調査の産業計・企業規模計男子労働者・学歴計一八歳の平均年収金一一九万七四〇〇円と推定される。

以上により原告の逸失利益を算定しホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算定すると金二〇二五万五二六六円となる。

(八) 損害の填補

右(一)ないし(七)の損害の合計は金三〇八八万八三九〇円であるところ、原告は自賠保険から金一〇三〇万円の給付を受けたので、その残額は金二〇五八万八三九〇円となる。

(九) 弁護士費用

原告は本件訴訟を原告代理人弁護士に依頼し、着手金として金五〇万円、成功報酬として勝訴額の一〇パーセント以下の範囲の支払を約したので、弁護士費用は金一五〇万円が相当である。

5  よつて被告らに対し各自前記4(八)の金二〇五八万八三九〇円の内金一五〇〇万円、及び同(九)の弁護士費用金一五〇万円の合計金一六五〇万円及び内金一五〇〇万円に対する症状固定後である昭和五四年三月三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告村上の認否

請求原因1項の(一)ないし(四)の事実は認め、同項(五)及び2ないし4項の事実は争う。

三  請求原因に対する被告会社及び被告菊田の認否

1  請求原因1項の事実中原告が原告主張の日時場所において被告村上の自動車により傷害を受けたことは認め、その余は否認する。

被告菊田は被告会社の貨物を配達するためT字路交差点の側端から五・九メートル、道路の左端から〇・八一メートル離れた地点に貨物の積み卸しのため停車していたものである。

2  同2項の事実は不知。

3  同3項(二)の事実中本件現場付近が駐車禁止場所に指定されていることは認めるが、その余は否認する。

被告菊田は前記1の如く停車していたもので、道路左端から〇・八一メートルの間隔があり、歩行者はその間を通行できる状態にあつたものであり、右停車には何らの違法もない。

被告菊田は、本件事故に関し、何らの刑事上、行政上の処分を受けていない。

同項(三)の被告会社が原告主張の車両の所有者であり運行供用者であることは認める。

4  同4項の事実は不知。

四  抗弁

1  被告会社

前記三の3のとおり本件事故に関して被告菊田及び被告会社には何らの過失がなく、本件事故は、原告が交通頻繁な本件道路を突然斜横断しようとして発生したもので、原告又はその監督責任者である父親の過失に起因するものであり、被告会社所有の本件車両に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから被告会社に損害賠償責任はない。

2  被告村上

同被告は原告に対し本件医療費として金一〇六万六五三三円、付添費として金三四万二二〇〇円を弁済した。

五  抗弁に対する認否

抗弁1項の事実は争い、同2項の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和五三年三月九日午後四時五〇分頃福島市飯坂町湯野字橋本一六番地先路上において、被告村上運転の普通乗用車が原告と衝突する交通事故が発生したことについては当事者間に争いがない。

二  事故の原因

1  成立に争いのない甲第二号証、被告村上育以本人尋問の結果及び検証の結果によれば次の事実が認められる。

本件事故現場は桑折方面から飯坂温泉駅方面に向いほぼ東西に通ずる幅員約六・八メートルの道路上で、該道路から南に分岐し湯野駅に至る幅員約六・五メートルの道路とT字型に交差する信号機のない交差点の東側付近路上である。

該道路は、ほぼ直線で前方に対する見通しは良いが、左方道路への見通しは良くなく、歩車道の区別のないアスフアルト舗装された道路であり、両側に有蓋の側溝が設けられている。

道路の両側には商店が密集し、車両の交通量は普通であるが、人の交通量が多く時速三〇キロメートルに速度制限がなされかつ駐車禁止の指定がなされている。

本件事故当時、路面は乾燥しており、薄暗くなりかかつたが照明灯をつけるほどではなかつた。

2  前出甲第二号証、成立に争いのない甲第一号証の一、証人朝倉宮子の証言、原告法定代理人、被告村上育以、同菊田新八郎各本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

(一)  被告村上は普通乗用車を運転して桑折方面から飯坂温泉駅方面に向い時速約三〇キロメートルで西進し、本件事故現場付近にさしかかつたが、本件事故現場は前記のように歩車道の区別のない幅員六・八メートルという比較的狭い道路であり、かつ人通りの多いところであるうえ当時進路前方左側に被告会社所有被告菊田運転の貨物自動車(車幅一・六九メートル、車高一・九〇メートル)が側溝から〇・二三ないし〇・三五メートルの位置に後記3のとおり停車していたのであるから、このような場合被告村上としては、停車中の車のかげから幼児等が出てきて道路向い側に横切つて行くようなことも予想できないことではないから、予め徐行したうえ、進路前方は勿論その左右への注視、安全確認を厳にして事故の発生を未然に防止すべき義務があるのにこれを怠り、若干減速したのみで、いささか漫然と停車中の車の側方を通過しようとした過失により、車のかげから道路中央寄りにとび出してきた原告を約四・九メートルの地点に認め、やや右に転把すると共に急制動をかけたが間に合わず、自車左前部を原告に衝突させた。

(二)  原告は、昭和四六年八月七日生れで当時六歳の幼稚園児であるが、姉と共に銭湯に行つた帰路一人で前記交差点西側で道路南側にある鈴藤スーパーに立寄り暫く遊んだ後同店を出て道路南側を若干東進した後、道路の安全を確認しないで、斜めに道路を走つて横断しようとして前記停車中の車のかげからとび出した過失により、前記被告村上の過失と相俟つて本件事故を惹起した。

3  前出甲第二号証、被告菊田新八郎本人尋問の結果及び検証の結果によれば、前記のように本件事故現場付近は駐車禁止に指定されているところ、被告菊田は貨物自動車を前記の位置に停車させ、荷物の積卸しをしたが、約一分後に本件事故が発生し、その後更に約五分間荷物の積卸しをしていたことが認められるが、証人朝倉宮子の証言によれば、原告は右被告車の停車とは関係なく斜めに道路を横断しようとしたものであることが窺われ、そうであるとすれば、被告菊田の停車と本件事故発生との間に相当因果関係はなく、本件事故は被告村上と原告との前記過失によつて発生したものというべきである。

三  損害

(一)  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし三及び原告法定代理人本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により頭部外傷(脳挫傷)、右大腿骨々折、左脛骨及び腓骨々折の傷害を受け、財団法人大原綜合病院に昭和五三年三月九日から同年九月一六日まで、次いで同年一一月二七日から同年一二月五日まで、各入院し、その間同年九月一七日から昭和五四年三月二日まで通院して(治療実日数一八日)それぞれ加療したが、右下肢短縮(三センチメートル)、視力低下(視神経部陥没、視力測定不能。日常生活では、狭い場所の走り抜け不能、衣服の表裏、ボタン穴の判別困難、物を取るのに二度掴みするという程度)、脳器質的損傷(脳波検査ではアルフア波が認められない、知能の発達の遅れが顕著である)の後遺障害を残し、身体障害者施設である大笹生学園に通園しており、これらの後遺障害を併合して自賠法施行令別表第四級に該当することが認められる。

(二)  治療費

原告法定代理人本人尋問の結果によれば、原告の治療費は健康保険を使用し、患者負担分は被告村上が負担したことが認められるところ、被告村上が右治療費として金一〇六万六五三三円を支払つたことについては当事者間に争いがない。

原告主張のその余の治療費についてはこれを認むべき証拠がない。

(三)  入院雑費

前記(一)認定のとおり原告は前後二〇一日間入院加療したことが認められるところ、この間原告は入院中の諸雑費として一日当り金六〇〇円の割合による計金一二万〇六〇〇円を要したものと推認される。

(四)  入院付添費

原告法定代理人本人尋問の結果によれば、原告は前記入院期間中その病状と年齢からして付添を要し、原告の父と姉とが右入院期間中付添つたこと、その他原告が緊急病棟に入院中の期間は被告村上において職業付添人を付したことが認められるが、右近親者付添費としては一日二〇〇〇円の割合による計金四〇万一〇〇〇円と認めるのが相当であり、被告が付した職業付添人に対する付添費として金三四万二二〇〇円を支出したことは当事者間に争いがない。

(五)  通院交通費

原告法定代理人本人尋問の結果によれば、原告は前記の通院期間中その病状年齢からして父親が付添い、肩書自宅から前記(一)の病院まで電車とバスを利用して通院したが、その費用として往復大人四六〇円、子供二四〇円計七〇〇円を要し一八日間で合計金一万二六〇〇円を要したことが認められる。

(六)  逸失利益

原告は本件事故により前記(一)の如き重篤な後遺障害を残し、そのため九二パーセントの労働能力を喪失したものと推定される。

ところで原告は前記(一)のとおり本件事故当時六歳の男児であつたが、本件事故に遭わなければ一八歳から六七歳まで通常の男子として稼働可能であつたと推定され、労働省統計情報部の昭和五二年賃金構造基本統計調査によれば同年の産業計・企業規模計の男子労働者・学歴計の一八歳の平均年収が金一二八万一五〇〇円とされていることは公知の事実である。

以上により原告が前記後遺障害により将来得べかりし利益を失つた額を算定し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算出すると次のとおり金二三五六万二四二八円となる。

1,281,500円×(27.6017-9.2151)=23,562,428

(七)  慰謝料

原告は本件事故により前記(一)のとおりの傷害を受け前記のとおり入通院して治療を受けたが前記のとおり後遺障害を残すに至つた。

右傷害の程度(入通院期間)、後遺障害、その他諸般の事情を考慮するとその慰謝料として金九八〇万円が相当である。

(八)  過失相殺

以上の(二)ないし(七)を合計すると金三五三〇万五三六一円となるが、本件事故の発生については前記二の2の(二)のとおり原告にも過失があつたことが認められるので、その損害額を定めるにつきこれを斟酌するべく、その程度は、前記二の2の双方の過失の態様、程度、その他の事情を考慮して原告の損害額から五割を控除するのが相当であり、そうすると原告の損害額は金一七六五万二六八一円となる。

(九)  損害の填補

原告が自賠保険から金一〇三〇万円の給付を受けたことは原告の自陳するところであり、被告村上から計金一四〇万八七三三円の弁済を受けたことは前記(二)、(四)のとおり当事者間に争いがないので、これらを右(八)の損害額から差引くと残金は金五九四万三九四八円となる。

(一〇)  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起及び遂行を原告代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであるが、右弁護士費用のうち金五九万円は本件と相当因果関係のある損害としてこれを被告に請求し得べきものと認められる。

四  よつて原告の本訴請求は被告村上に対し金六五三万三九四八円及び内金五九四万三九四八円に対する昭和五四年三月三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、右被告に対するその余の請求並びに被告会社及び被告菊田に対する請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤一男)

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